紀元前8世紀に、ホメロスの『イーリアス』が書かれた。この書物の中で、黄金の少女ロボットが登場する。その第18巻の「武具こしらえの段」で、息子アキレウスのために武具を整えようと、海のティティスは天上にいる鍛冶の神ヘーパイトスを訪れる。このヘーパイトスの側には、黄金製で精神が宿り、人間の声や技術や気力まで有している少女ロボットがいた。
これは鍛冶のようなつらい仕事をいやがらずに行う労働力が欲しいという、古代ギリシア人の願望が作り出したものといえる。
紀元前3世紀に、アポローニオスの『アルゴ探検隊』が書かれた。この書物の中で、青銅巨人タロスが登場する。タロスはクレタ島の海岸を1日3度見回り、他国人の上陸を防ぐことを役目とした青銅製の人造人間である。火に強く、異国人が近づくと青銅の体をわざと灼熱させて抱きつき、焼き殺したり、巨岩を投げつけて追い払ってしまう。ただし、弱点もあり、首からかかとまで1本の血管が通っており、下端を青銅の栓で止められている。それを抜かれてしまうと、熱流が流れ出て、倒れてしまう。アルゴ探検隊はこの弱点を用いて、タロスを倒すのである。
タロスの製作者は、アテネの工芸技術の象徴である有名なダイダロスということになっているが、当時の権力者の求める理想の兵士像であったと思われる。
鎌倉時代に西行法師が書いた『撰集抄』には、人造人間が登場する。師仲という秘術家がいて、人間そっくりの生物ロボットを何体も作り、その中のひとつは正解の大物になったという。
当時、西行法師は高野山で修行中であったが、親友に先死された悲しさを紛らわすために、反魂の秘術を体得し、親友を復活させようとするが、これを助けるため師仲の秘術が登場する。しかし、西行は途中で怖くなり、この秘術を使うのをやめてしまうという話である。
[補講]その後の日本では、幽霊などの話が多くなり、本格的なロボットの存在は扱われなくなってきた。一方、ヨーロッパでは盛んにロボットへの関心は残ったままであった。 ◇
試験管の中から生まれた小人間「ホムルンクス」が登場する。
19世紀はじめには、イギリスの作家メアリー・シュリーによって『フランケンシュタイン』が生み出される。
ドイツの若い生理学者であるフランケンシュタイン博士が、生命を創造しようとして、墓地や解剖室から生命の材料を集め、電気を与えて1個の怪人を作り出すことに成功するという話である。作られた怪人は自らの醜態さから、作り主に憎悪を抱き、ついに殺してしまう。そして、怪人自らも氷のイカダに乗って暗黒の北の海に消えていってしまうのである。
[補講]フランケンシュタインとは、怪人の名前ではなく、博士の名前であるが、今日ではフランケンシュタインは人造人間の代名詞になってしまっている。 ◇
17世紀の哲学者フランシス・ベーコンの『ニューアトランティス』には、機械工場用のロボットが登場する。
SFのロボットから現存する技術体系としてのロボットへの進化は、単なる機械から人間的な(より人間に近い)動作・作業が可能な自動機械としてのロボットへの発展といえる。
アレクサンドリアのヘロンは紀元前1席に、蒸気力や錘【おもり】を動力とする自動装置をいくつか考案し、芝居に使った。そのひとつに錘の力で車を動かす装置がある。錘の下に砂を入れて、砂の出口の大きさを調節して車の速度をコントロールするというアイデアであった。この原理は日本の深海調査船「しんかい2000」でも使われている。
1920年にチェコスロバキアの作家カレル・チャペックは戯曲『R・U・R』を書いた。「R・U・R」とは「ロッサム万能ロボット会社」の略で、ロボットという言葉は「働く」「奉仕する」という意味を持つチェコ語の「ロボータ」から来ている。
この戯曲は偉大な生物学者ロッサムが、深海底から発見した新物質を基にして、骨・筋肉・内臓・神経などを合成して、高級な秘書ロボットから下級な肉体労働者ロボットまでの各種ロボットを量産していくという内容である。ロボットたちによって、人間は労働から解放され、理想社会がきたかのように思われたが、ロボットと人間は軋轢を起こし始め、各地で暴動が起こり始める。ロボット導入に判定して暴動を起こした労働者たちは、ロボット軍隊が鎮圧し、ついには人間は経済も社会も社会もロボットによって抑えられてしまう。しかし、ロボットには生殖能力がなく、滅亡の危機に瀕する。そんなとき、ある技術者が恋愛感情を持つ男女一対のロボットを作り、新しいアダムとイブが誕生するという内容である。
[補講]この戯曲は日本でも1942年に築地小劇場で上演されて以来、各地でしばしば上演されている。 ◇
チャペックがこの戯曲で言いたかったのは、機械文明における人間と機械(ロボット)との調和こそ、新しい時代のテーマであるということである。
チャペック以前にも人造人間という形でロボットへの関心があった。しかしながら、ロボット(奉仕するもの)という喜怒哀楽の感情を持たない人工的な機械の発展物としての方向性を与えたのは、チャペックが最初である。