呼の発生はその通話時間の長さや発生間隔などが、互いに独立であると考えられ、対象加入者が多い場合にはランダムであるといえる。こういった呼の生起の状態は、最単純流と呼ばれる確率過程で表すことができる。
最単純流の過程は、次の3つの条件を満たしたものである。
以上の3つの条件のもとで、時間TからT+tの間にk個の呼が生起する確率vk(T,t)時間間隔tでの生起確率vk(t)とすれば、次のようになる。
平均保留時間をk0、呼源から生起する呼量をaとすれば、vSUB{k} ;(t)は次のようになる。
例：1 [erl]の呼量があるとき、平均保留時間h0の間には2個の呼が生起する確率v2は次のようになる。
生起した呼がいつ終了するかは、通話時間即ち、保留時間に関係する。保留時間は電話を例に取れば、用件や通話者の性格によって様々である。しかし、多数の集団としてとらえれば、全体として統計的な分布を示している。
電話呼のような多数の呼の保留時間がt以上である確率をh(t)とすれば、h(t)は、次のような指数分布になることが知られている。ちなみに、h0は平均保留時間である。
保留時間が一定であるような呼も存在するが、多くの呼の実測とこの分布はよく一致している。呼の保留時間をこのように定める（仮定する）ことを保留時間の指数分布の仮定という。
この仮定の特徴は、ある時点で保留中の呼がそれ以降どのくらい保留され続けうるかが、その呼がいつ生起したかとは無関係である点である。この特徴により、種々の確率計算を容易にしている。
企業内における電話を中心とした呼の1日の変動は、一般に10時や15時に高く、夜中や12時に低くなることが経験的に知られている。
また1週間を通じてみれば、月曜日や金曜日が多く、年間を通じてみれば、12月や期末の3月が多くなる傾向にある。
1日のうち最も呼量の多い1時間を最繁時という。そして、最繁時の呼量が1日の総呼量に対して、何％を占めているかの比率を最繁時集中率と呼ぶ。この最繁時集中率が高いほどPBXを使っているときと使っていないときの差が大きいことを意味する。
週の曜日によって異なる曜日変動や1年を通じての変動である季節変動、世の中の景気によって変わる年変動といった変化の捉え方がある。これらをまとめて変動要素という。
さらに、呼自体も目的に達した呼（相手と話ができた呼）を完了呼、相手が話し中であったり交換機などの輻輳によって通信ができない呼を不完了呼という。
完了呼・不完了呼どちらとも通信設備を使うという点では同じであるが、保留時間は大きく異なる。
ある通信系で同時に何人の人が通信を行っているかを示す同時接続の確率がわかれば、PBXを構成する通信路スイッチの大きさやトランク装置などの数を求めることができる。
最も基本的な同時接続の確率式を求めるため、次のような仮定を設ける。
このような仮定の下で、系にaの呼量が加わったとき、n本の出線に対しx個の呼が同時に使用されている確率をPxとすれば、確率過程論より、次の式が得られる。これをアーラン（Erlang）の同時接続確率式という。
系に入った呼が出線が全て塞がっている状態に出会ったとき、損失系では生起した呼は接続できず損失呼となる。つまり、電話で空き回線がないときは行列を作らずに、話中音を出してお客さんに諦めさせる。呼が損失になる確率を呼損失といい、Bで表す。
呼損失B＝損失呼量/生起呼量
即時式のモデルでは、この呼損率を何％にするかがポイントになる。呼損失Bとの呼量aの関係は、次の式で表される。
この系で運ばれた呼量aiは次のようになる。
これを整理すれば次のようになる。
したがって、アーラン（Erlang）の公式を導ける。
[定理]アーラン（Erlang）の公式
[補講1]この式は、デンマークのA.K.Erlangによって、求められた呼の損失確率点であり、PBXなどの交換機を設計する上で最も基本的な式である。
[補講2]この計算は手動では大変である。そこで、即時式完全群負荷表が使われる。 情報系の資格（ネットワークスペシャリストなど）の問題では、簡易的な即時式完全群負荷表が示されることが多い。
例：出数線が5本ある交換機に電話機が60台接続されているとする。
呼が生起すると5本の出線の中の空いている1本を選んで接続する。電話機1台当たりの呼量は0.05[erl]とすれば、呼損率はいくらになるだろうか。
交換機に入る呼量は、0.05×60=3[erl]である。よって、呼損率Bは次のようになる。
∴呼損率11[%]
E.C.Molinaは、次の仮定のもとに損失確率式を導き出した。
[公式]Molinaの損失確率式
N.H.Martinは、入線数が有限でN本、出線数も有限とした場合の損失式を導入した。
[公式]N.H.Martinの損失確率式
呼が生起し、サービスを受けるべき機器がその時点でなかったら、空くまで待つ方式であり、これの場合機器の使用率はよくなる。
損失系においては、出線の使用率は呼損率が高いほどなくなる。即ち、機器や回線類の使用率を上げるには呼損を多くすればよいわけだが、サービス性は低下することになる。サービス性をさほど低下させずに機器類の効率を上げる方法として、待時系がある。
待時系においては、待ち合わせ方、待っている呼の接続順序、入線や出線数の制限などの組み合わせで種々の方法がある。これらを一般的に取り扱うのは複雑ですので、次の仮定を設ける。
上記の仮定の下に、統計的平衡の概念より状態方程式をたて、待ち合わせの確率Mを求めると次の式のようになる。
[公式]Erlangの待ち合わせ確率式
例：出線数が5本で3[erl]の呼が加わった場合の待ち合わせ確率は、次のように計算される。
よって、23.6[%]
待ち合わせ系では、ある確率で呼は待ち合わせ状態に入るが、そのサービス性を測る尺度として、どのくらいの時間を待てばサービスを受けられるかが重要になる。
平均待ち合わせ時間Wは、待ち合わせ確率M、平均保留時間h0、加わる呼量a、出線数nの関数として、次の式で表される。
通信ネットワークにおいて、最繁時でも常に回線を捕まえられるようにするには、最大同時接続数の回数や機器を常に用意しておくことになり、不経済である。実際のネットワークの設計に当たっては、トラヒック量の把握や予測のもとに、呼損率をパラメータとして回線数の算出を行う。
PBXに接続される回線数を算出するには、そのルートへの発生呼量を測定あるいは推定し、呼損率を定めて前記損失式で計算すればよい。損失式の計算はかなり面倒なので、各式を出線数・呼損率・呼量をパラメータとした表ができていく。これを負荷表という。実際の回線数算出はこの負荷表で行う。
人の習性として、電話をかけて話し中に出会った場合、再度発呼を繰り返す（再呼）ことがある。即ち、この場合にはひとつの発呼要求が複数の呼になり、見かけ上の呼量が増加することになる。交換機の規模が大きいときには、この影響はあまりないが、小さな交換機では再呼を考えたほうがより現実に近くなる。したがって、負荷表も場合によって使い分けするのが普通だ。
回線数算出に当たっては、呼量把握が重要な要素となる。
呼量測定には、PBX自体が持っているトラヒック測定機能を用いたり、呼量測定機を外部に接続したりして行う。最繁時呼量測定においては、次の点を考慮する必要がある。
このようにして測定したデータでも変動要素を全てカバーすることは困難である。さらに、安全率や年度上昇率をかけて最繁時呼量を求めることが必要である。
