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目次

伝統的な金融理論の欠点

 伝統的な金融理論の大前提が「金融市場は合理的に働くこと」とされている。逆に言えば、気まぐれに動く市場の動きは分析の対象になっていなかったわけである。

 例えば、バブルのような理屈とは程遠い現象や動向のことをアノマリーまたはノイズ(短期的な市場の振れ)と称して、説明することを放棄していたのである。

 しかしながら、実際の金融市場では、毎日理屈どおりではない現象が起きている。長い目で見れば、伝統的な金融理論の結果に収束していきがちだが、短期的に見ると適切に分析できないのである。

ヒューリスティック

 先入観のことをイドラと呼ぶが、特に「値段が高いから良いものである」という先入観を、心理学の世界では判断のヒューリスティック(または単にヒューリスティック)と呼ぶ。日本語では直感的推論と呼ぶ。つまり、直感的なひらめきによって、ある推論を完成させてしまうことがこれに当たる。日常で勘と呼ばれるのもこれに属する。

 金融市場のトレーダーたちが、この直感的推論によって、売買することがたびたびある。直感的推論ということは、非効率と言えるような取引を行っていることになるので、全体で見た市場も伝統的な金融理論で解明されないことが多いのだ。

 神のみが知る将来の出来事によって、株価の動きが変動するのであれば、それは全く規則性の無いでたらめな動き(ランダムウォーク)になるはずである。そうなれば、株価の変化率は統計手学的にいって、釣鐘型の正規分布になるはずである。これが伝統的な金融工学の基本である。この考えによれば、株式など特定の金融商品の価格変化は、統計学である程度予測できることになる。その予測を用いて、金融派生商品(デリバティブ)のフェアバリューを算定しようとするのが金融工学の本質なわけである。
 例えば、オプションの価格理論として有名なブラック=ショールズ・モデルがある。1997年のノーベル経済学賞の受賞対象業績として評価された。

行動ファイナンス理論とは何か?

 伝統的ファイナンス理論とは、裁定*1の考え方を極限まで、押し広げたものである。

 例えば、東京で金が1グラム5,000円で売買されていたとします。一方、名古屋で1グラム5,100円で売買されていたとします。そうすると、東京で金を買い、名古屋で売るだけで、1グラム当たり100円の利益になります。これを「金の裁定取引で利益を得る」という。このようなうまい話をフリーランチと呼び、ただ飯にありつくという意味合いになる。しかし、大勢が東京で金を買おうとすれば、結果的に、東京市場での金の値段は上昇する。そして、名古屋で金を売ろうという人が増えるため、名古屋市場での金の値段は減少する。最終的に、東京と名古屋の値段は同じになっていく。これを一物一価の法則と呼ぶ。

効率的市場仮説

 効率的市場仮説とは、市場が合理的に動いているということである。即ち、市場で裁定が行われているということである。

 前述したフリーランチの話との関係を考えると、「市場が効率的ならば、フラーランチはない」(これをノーフリーランチルールと呼ぶ)ということになる。

インサイダー情報と市場取引

 非対称情報とは、信用できる情報を多く持っている人間とそうでない人間がいて、人によって情報の偏りが出ているということである。 

 インサイダー情報(企業の従業員などの内輪だけが基本的に持っているような情報)を持つ投資家がいた場合、最悪だと市場での取引が消滅する可能性が発生する。

インサイダー情報が引き起こす取引消滅の過程

 一般投資家(インサイダー情報を持っていない投資家)がいたとする。一般投資家は現在の株価を適正だと考えており、この値段以上ならば売り、値段以下ならば買おうと考えている。一方、インサイダー(インサイダー情報を持つ投資家)は一般投資家より有利な情報をもっているので、先行き値段が動向が事前に予測できる。

 一般投資家がインサイダーの存在を知っているかどうかで場合分けする。

  1. 一般投資家は誰がインサイダーかを分かっているとする。
    • あるインサイダーが株を売ったとする。これを知った一般投資家が、インサイダーの相手方になって株を買わない。
  2. 次に、一般投資家が誰がインサイダーかわからないとする。インサイダーたちは、自分自身をインサイダーとばれたくないので、現実ではこの場合が多い。
    • すると、疑心暗鬼になった一般投資家が取引を行わず、インサイダーも一般投資家が取引相手になってくれないので取引ができない。

 したがって、1,2より、インサイダー取引が存在すると最悪の場合、市場取引が消滅してしまう。この状態の市場をマーケットフォーレモンと呼ぶ。

エージェンシー問題

 エージェンシーとは代理人のことで、ファイナンスの世界では株式の代理人である経営者などを指す。

[問題]エージェンシー問題
株主は経営者を常に監視することが不可能なので、経営者は株主の利益を省みず、自分勝手なことをしてしまう可能性があり、その場合に株主はどう行動するのが最適であるのか、そしてその結果として経営者はどう反応するのかを考える。

例:経営者のオフィスを豪華にしても、コストがかかるだけで、企業実績のアップにはあまり繋がらないことなど。

プロスペクト理論

リファレンスポイント

 リファレンスポイント(参照点)とは、人がある物事の認識や評価をする際の基準となる点である。リファレンスぽんとは中立的な存在を意味する。

 例えば、銀行に平均5分並ぶことが普通だと思う人がいたとする。ある日、1分で自分の順番になれば早いと思い、10分で自分の順番になれば遅いと思うはずである。この場合、5分という待ち時間がリファレンスポイントになるわけである。なぜならば、5分ならば特別な感情を抱かないから、リファレンスの定義に当てはまるからである。

感応度逓減

 リファレンスポイントを境目に、利益を増えれば増えるほど、それによって得られるプラスの価値も増えてくる。また、損失が増えれば増えるほど、マイナスの価値が増える。しかし、その利益(または損失)の増加量と価値の増加量は比例関係ではない。つまり、利益(または損失)の増加量に対するプラス(またはマイナス)の価値の増加量は、次第に小さくなっていく。これを感応度逓減【ていげん】という。

 物事に対する感じ方がリファレンスポイントから離れれば離れるほど、鈍くなることになる。

 リスク愛好的な損失領域の存在を示したのが、プロスペクト理論の大きな特徴といえる。

損失回避

 リファレンスポイントの左側の損失領域にあるグラフの傾きが、利益領域のそれよりも急になっている。これは、一単位の損失の増加は利益の増加よりも価値の感応度が大きいということを意味している。つまり、人々は利益の増加よりも損失の増加に、敏感に反応しやすいということである。この現象を損失回避と呼ぶ。

人間の決定の重み付け(決定ウェイト)

 人間の確率の重み付けは客観的な確率に一致しません。むしろ主観的な評価より複雑だといえる。

 従来の効用理論では、人間の決定の重み付けは、客観的確率に従う線形モデルであると仮定されてきた。しかし、決定ウェイトは直線で表される線形モデルではなく、S字型の非線形モデルとして表される。これもプロスペクト理論の特徴である。

リスク回避的なのかリスク愛好的なのか

 プロスペクト理論に関する実験結果によれば、人は利益が出ている局面と、損が出ている局面では、リスクに対する捉え方が変わると示されている。

バリュー株について

 バリュー株とは、収益など基礎的要因が相対的に高いにもかかわらず、株価が今ひとつ低迷している株式のことである。簡単にいえば、不人気株であるわけだ。

 しかしながら、バリュー株のような不人気株の方が、長期的にはパフォーマンスが高水準になることが統計的に実証されている。要するに、バリュー株に投資するという手法は、思った以上にパフォーマンスが安定し、高い運用利回りを確保しているケースが多いといえる。

行動ファイナンスから見た投資法

1:割安で優良ビジネスモデルを持っている企業の株を買う。

2:人気だけが先行している株には手を出さない。

3:投資は短期的なぶれに惑わされないように、長期を基本に考える。

4:あらかじめ、許容できる損失額を購入時に具体的に設定しておき、それを超えたらすぐに売却を考える。

5:利益がでてもすぐに売りに出さない。利益の確定はゆっくりで良い。

6:ポートフォリオはよく分散しておく。

7:状況によっては、逆張り、バリュー株、モメンタム投資戦略を考える。

 いずれも当たり前のように見えるが、その時々の市場のムードの中に浸ると、なかなか冷静に考えられない。

参考文献

  • 『最強のファイナンス理論』


*1 高いものを売って、(それと同等のもので)値段の安いものを買うこと。