スピーカーはごく低音から高音までの広い周波数をむらなく出して複雑な波形も歪なく再現して欲しいものだが、指向性のグラフでは大口径のスピーカーは高音域の志向性が強くなり、中央の軸線から外れて斜め位置では高域が聴けなくなる。
また低音を出そうとすると大きな面積の振動板が必要となり、それは当然重くなり、今度は逆に出すことが困難になるわけである。よって、高音用スピーカーは高音専用に小口径に作られる。
小口径 | 高音用 |
大口径 | 低音用 |
ところが低い音を大きく出そうというのに口径の大きい方が向いていて、なかなか広い音域をひとつのスピーカーでカバーするのは厄介なことになる。
そこでひとつのスピーカーで広い周波数全域をカバーする代わりに、帯域を分割して複数のスピーカーを利用する方法によって広い周波数全域をカバーする。これを複合(マルチ、マルチウェイ)スピーカーシステムという。
・低音用スピーカー。
・主にコーン型が使用される。
・大きさは口径で表し、25cm〜38cmのものが多いが、80cm程度のものまで実用化されている。
・口径が大きいほど能率もよく、聴感的評価も高いが、エンクロージャが大きくなり、製品の数は多くはない。
・中音用スピーカー。
・コーン型、ドーム型、ホーン型などが使われる。
・高音用スピーカー。
・コーン型、ドーム型、ホーン型が主流であるが、他にリボン型、コンデンサ型なども使用される。
・広帯域スピーカーを用いる。
・これを複合スピーカーシステムではない。
・ウーファー、トウィーターの2つのスピーカーを用いる。
・ウーファーとトウィーターの境目は1,000〜4,000Hzである。
・録音スタジオのモニター用、音響システムが中級以下の家庭に多い。
・家庭用として用いられるのは価格が安いことが主な理由だが、モニター用スピーカーに2WAY型(音域的にはウーファーとスコーカーの2WAY)が使用されるのは、大容量を出したときにトウィーターを破損しないための配慮である。
・ウーファー、スコーカー、トウィーターの3つのスピーカーを用いる。
・ウーファーとスコーカーの境目は400〜600Hzである。
・スコーカーとトウィーターの境目は3,000〜4,000Hzである。
・一番標準的な組み合わせ。
・全体のバランスも取りやすく、最も数多く使用されている。
・3WAY型の問題点は、ウーファーとスコーカーの境界(300〜500Hz辺り)で聴感的に音の充実感が不足することである。
・4WAY型はその音域にミッドバスと称するスピーカーユニットを1個追加して、その問題を解決したものである。
・この4WAY型はかなり高級なシステムに属する。
・同じスピーカーユニットを複数個使用することもあるが、その場合はマルチウェイの数には入れない。
・同じスピーカーユニットを複数個使用することもあるが、その場合はマルチウェイの数には入れない。
複合スピーカーシステムの場合、2WAYなら2つ、3WAYなら3つのそれぞれのスピーカーの受け持ちがバトンタッチする周波数がある。これを交差周波数(クロスオーバー周波数)という。下手をするとここで綜合特性に山や谷ができることに注意が必要である。
アンプからの出力をそれぞれのスピーカーに入れるために、分割回路(ディバイディング・ネットワーク)とか単にネットワークと呼ばれる回路を使うことになる。
大型セットでは出力増幅も別々にする方式もある。
これはコンデンサーとコイルの周波数(音の高さ)の関係を利用する。
コンデンサーC | コイルL | |
高音ほど | 通りやすい | 通りにくい |
低音ほど | 通りにくい | 通りやすい |
スピーカーに合わせてクロスオーバー周波数が決まれば、それによってコイルとコンデンサーの値を決める。
例1:2WAYの分割回路の例1
例2:2WAYの分割回路の例2
例3:3WAYの分割回路の例
・日本では、スピーカーユニットはボイスコイルに電池を接続して、振動板が前進したときに電池の+側が接続される方を、ボイスコイルの+側と決めることになっている。
・このことは、スピーカーシステムでも同じで、必ず色分けするか符号が付けられているので、アンプの同じ符号の端子に接続する必要がある。
・12dB/oct型のネットワークの出力では、フィルタの位相特性によってクロスオーバー周波数(fc)で隣接するフィルタの出力と180°位相が異なる。そのために、12dB/oct型ではツィーターまたはスコーカーを逆極性に接続して、fcにおいて隣接するスピーカーと同位相になるようにする。このことを怠るとfcで打消しが起こり、周波数特性に鋭い谷ができてしまう。
[補講]クロスオーバー周波数とは、マルチウェイスピーカーなどで、受持ち帯域と隣りの帯域の境界の周波数を指す。通常はこの周波数において双方とも-3dBとなる。