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*目次 [#w3497c70]

#contents


*イソクラテスのレトリック [#n870c1e2]

 [[イソクラテス]]は、''レートリケー(レトリック)''を中心として詩文、歴史、政治、倫理道徳などを合わせて学ぶことによって、人間的(人文的)教養の獲得を目指す哲学を提唱した。その教養というのは思慮分別を伴なう言論の教養である。このようにしてイソクラテスは西洋に置けるレートリケーを中心とする人文的教養の伝統の基礎を確立した。 

[補講][[アリストテレス]]によるレートリケーの理論はこのような歴史を背景に成立した。


*アリストテレスによるレートリケー [#g43441fe]

[定義](アリストテレスの定義『弁論術』)~
レートリケーとは、それぞれどんな事柄に関してでも、可能な説得手段(説得的なもの)を見つける能力のこと。

[補足1]説得的なものといっても、どういう種類の人にとってであるかによって異なる。
また、説得的なもののうちにも、「それ自体だけでただちに説得的であって信じられるもの」と「それ自体だけで説得的なものを根拠にして証明されていると思われることにって説得的なもの」とがある。単に、「証明されている」だけではなしに、説得しようとする相手によって「証明されていると思われる」のでなければならない。

[補足2]「説得的なもの」とは、まず相手としている何らかの種類の人々にとって「そうだと思われること」(エンドクサ)でなければならない。さらに、それに基づいてある主張を相手に説得しようとするならば、それを単に証明即ち論証するだけでは不足である。相手の信頼を獲得し、相手のパトス(感情)をも誘導する説得的な仕方で論証しなければならない。その論証の前提となる説得的なエンドクサとその論証の論理を見つけ出す能力、それがアリストテレスのレートリケーである。


**レートリケー理論の概観図 [#yb23ce32]

 アリストテレスによると、レートリケーの研究課題は3つある。

-説得立証法(ピステイス)
--説得立証(説得するための証拠立て)は一種の論証であるが、それがどのようにして得られるかという方法。
---『弁論術』の第1巻と第2巻
-修辞(表現)法(レクシス)
--語らなければならないことをどのように語ったらよいかという方法。
---『弁論術』の最後の第3巻
-配列法(タクシス)
--弁論の諸部分をどのように配列したらよいかという方法。
---『弁論術』の最後の第3巻


**論証的な説得立証と共通な説得立証 [#t3486afb]

 アリストテレスによると、一種の論証として「論証的な説得立証」または「共通な説得立証」と呼ばれるものがある。それには、説得推論と例証がある。

 証明(論証)は何ごとかを主張するための理由を説明する言論である。これは方法によって、推論と帰納の2種類に分類できる。

-推論 
--いくつかの前提命題から結論命題が論理の必然によって導き出される言論のこと。
--妥当な(正しい)形式の推論においては、前提がいずれも真であれば、必ず結論も真となる。
-帰納
--Aである(属性Aを持つ)幾つかのものがBである(属性Bを持つ)という個別命題を理由(前提)にして、Aである全てのものがBであるという普遍命題を主張(結論)しようとする言論のこと。
--言い換えると、同種の幾つかのものがそうであるということを理由として、同種の全てのものがそうであるということを主張する論法である。
--いくつかの個別命題から普遍命題を推論することは妥当ではない。だから帰納の場合は前提がいずれも真であっても、結論は真であるという保証は無い。しかし、否定的な事例が見つからなければ、反論されないことにもなる。


*真実らしいこと・証拠・微証 [#o81d6812]

 アリストテレスは説得推論の前提または論拠として次の3種類を挙げている。

-真実らしいこと(エイコス)
--大概の場合にそうである、またはそうであると思われること。 
---それを述べた命題は蓋然【がいぜん】命題である。
---例えば「妬む人は憎むものだ」、「借りたものを返すのは正しい」、「子供は親を愛する」などは蓋然命題という。
---しかし蓋然命題なので、これらを前提とした説得推論に異論を唱えることが可能。とはいえ蓋然命題に対して、必ずしもそうでない、必然的でないといって異論を唱えただけでは反論にならない。必然的ではないということは、蓋然命題である以上、当然のことだからである。反論するためには、それが蓋然命題ですらない、即ち真実らしいことでない、大概の場合にそうではないということを示さなければならない。反対例として多くの事例を挙げることが効果的ということだ。
-証拠(テクメーリオン)=必然的な微証
--当の結論に対して必然的な関係を持つ前提のこと。
---例えば、「彼は熱が高い」(前提)は、「彼は病気である」(結論)の証拠である。
証拠を前提とした説得推論には反論できない。証拠といわれる前提が真であれば、必ず結論も真となるからである。
-微証(セーメイオン) 
--当の結論に対して必然的ではない関係を持つ前提のこと。 
---例えば、「彼はうそつきである」(前提)は、「彼は詐欺師である」(結論)の微証である。
---微証を前提とした説得推論には、異論を唱えたり、反論したりすることができる。


**トポス [#k253221e]

 アリストテレスがいう''トポス''とは、思想・言論のそれぞれの論拠が見出される場所・領域を意味する。つまり、言論の拠り所ということである。


**ロゴスによる説得立証に役立つ固有トポス [#l2e032db]

|審議弁論|利害に関するトポス|
|法廷弁論|正・不正に関するトポス|
|演示弁論|徳・悪徳に関するトポス|


***正・不正に関する固有なトポス [#z3e78531]

 「不正行為をする」とは、「法に反して意図的に誰かに損害を与える」ことであると定義される。 ここで「法」といわれるもにには「固有(特殊的)な法」と「共通(普遍的)な法」がある。

-固有(特殊的)な法 
--それぞれの国家社会の人々によって自分たちの生活のために定められた法。
--これには「書かれた法」と「書かれていない法」にわけられる。
-共通(普遍的)な法 
--すべての人々の基で同意が得られるかと思われる法。つまり、自然法のことである。
--これも書かれていない法といえる。

 こうした法に反する行為が不正行為である。

#img(http://s-akademeia.sakura.ne.jp/main/image7/hou.jpg)
#img(,clear)

 不正行為の相手となる人々は次が挙げられる(『弁論術』)。 

+自分が欠乏しているものを持っている相手。
+他人を信じやすい人。
+告訴するだけの気配りをしない無頓着な人。
+利得をめぐって争う性質の人でないはにかみ屋。
+多くの人々から不正な目にあいながら、訴えたことのない人。
+不正な目にあうことに対して無警戒な人。
+他人から中傷されていたり、中傷されやすいので、進んで告訴しようとしない人。
+おまえたちの一門の方が我々一門に対して悪いことをしたとか、悪いことをしようと企てたとかいう、口実を設けることの出来る相手。
+不正を加えるのが快いものとなる敵。
+不正を加えるのが容易な友人。
+友人(味方)のいない人。
+弁護や行動が上手でない者。
+裁判沙汰で時間を増やすのが利益にならないような人。
+これまで多くの不正を働いてきた人、あるいは自分が現にこうむっているのと同じ不正を働いたことのある人。
+悪いことをしてきた人、または悪いことをしようとしている人。
+その者に不正を加えることが、自分の生活の支えになっている人たちを喜ばせることになるような相手。
+不正を加えても情状酌量を得ることができる相手。
+これまで不満を抱いてきた相手や以前に仲違いをしたことのある相手。
+自分でなくても、他人が不正を加えようとしている人。
+多くの正しいことをなすためには、ある程度の容易に癒されうる不正を加えるのはやむをえないといった相手。


*レートリケーと形式論理学 [#x6b17a48]

 レートリケーによる推論が共通トポスの一般型に即しているように、ディアレクティケーによる推論も同様に一般型に即している。 

 それに比べると、[[論理学]]([[形式論理学]])は、どんなものにも適用できるような推論の一般型を研究する学問といえる。

 推論は前提(仮定)と呼ばれる幾つかの命題と、結論と呼ばれるひとつの命題から成り立つ。そして、それら前提から結論が導き出される。命題というのは、真か偽かどちらかである言語表現のことで、通常、日常言語の平叙文に当たる。


*参考文献 [#v088611f]

-『論証のレトリック 古代ギリシアの言論の技術』