• 追加された行はこの色です。
  • 削除された行はこの色です。
  • 頭部損傷 へ行く。

*目次 [#iced7582]

#contents


*頭部傷害 [#rcdab004]

 頭部に外力が作用し、そのエネルギーが局所的に吸収されると、その程度によって頭蓋軟部組織・頭蓋骨・脳膜・脳そのものに損傷を起こすことがある。損傷がなくても、平手で殴られたりして、頭部が全体として急激に動かされたり、運動を急に止められたりすると、脳震盪を起こすことがある。こうしたものの総称を''頭部傷害''という。


*硬膜外血腫 [#d837d211]

 頭蓋骨の内側には''硬膜''という丈夫な膜が付いている。この硬膜と頭蓋骨との間には硬膜動脈が走っている。そのうち耳のすぐ上の側頭部を走っている中硬膜動脈がもっとも太い。

 ところで頭蓋骨の厚さは一様ではない。頭頂部や後頭部は比較的厚く、5mmくらいはある。側頭部は2〜3mmの厚さしかなく、中硬膜動脈の通路になっている部分は溝になってさらに薄くなっており1mmくらいの厚さしかなく。よって人間の側頭部の頭蓋骨はそれほど強くない外力によっても、比較的容易に骨折してしまう。そのため骨折があった場合はもちろんのこと、それがなくてもある程度の強い外力が作用すると、そこを走っている中硬膜動脈が損傷され、そこに出血が起こることがよくある。もちろん硬膜動脈からの出血は側頭部に限らないが、先ほどの解剖学的理由から側頭部にみられることが圧倒的に多い。

 硬膜は頭蓋骨とかなり強くくっついているので普通の出血とは異なり、この硬膜外出血はゆっくりと起こるが、動脈なので出血は確実に進行し、最終的に硬膜外血腫を形成するに至る。この硬膜外血腫は、円盤状になるのが特徴である。直径10cm、厚さ3cmという例は珍しくない。このときの出血量はせいぜい200gぐらいである。これが手足からの出血ならたいしたことはない。しかしながら、頭蓋腔の中には脳というもっとも重要な臓器が一杯につまっているため、血腫が大きくなるにつれて、軟らかい脳は次第に圧迫され、脳圧迫が起こる。こうなると開頭手術により、血腫を取り除き、出血を止めない限り、脳の機能障害のために確実に死亡することになる。

 こうした硬膜外血腫による脳圧迫で死亡する場合でも、約3分の2の例においてはほとんど無症状の時期がある。側頭部などに何らかの外力が作用した直後には、目がくらんだり、あるいは脳震盪の状態になったりするが、その後ほとんど普通のように行動していることがある。


*蜘蛛膜下出血 [#eead15f1]

 脳の表面には''蜘蛛膜【くもまく】''という薄い膜がある。この膜自体には血管はないが、この膜の下の血管が破れると''蜘蛛膜下出血''が起こる。蜘蛛膜下出血は外傷によることもあり、自然に起こることもある。

 一般に脳・脳膜系疾患のうち、男性では脳出血が約60%ともっとも多いが、女性では蜘蛛膜下出血が約55%でもっとも多い。

 蜘蛛膜下出血の原因は脳動脈瘤の破綻や硬化動脈の破綻などがあるが、特に問題なのが脳動脈瘤である。これは脳底面の中央部に見られることが多く、細い動脈が部分的に数mm〜3cmにも膨らんでおり、血管壁が極端に薄くなっているために興奮あるいは排便などによって血圧が上昇すると、容易に破裂しやすく、比較的軽度な外力によっても破綻することがある。

 普通の病的脳出血は、脳の中の絹糸ぐらいの細い血管からの出血である。老人に多いが、蜘蛛膜下出血は比較的若い人にも少なくない。

 そして頭部などに比較的経度の外力が作用した跡で蜘蛛膜下出血を起こし、解剖の結果脳動脈瘤からの出力であることが認められたら、出血に対する外力の責任にについて判定が必要になることがある。例えばそれが業務上のものかどうかで労災補償されるかどうかにかかわってくるからである。


*対側損傷 [#jb75362a]

 人体が外力を受けた場合はその場所に損傷が生ずるのが普通であるが、脳の場合は頭蓋骨という丸い箱のようなものの中に豆腐のようにやわらかい脳が一杯つまっているため、頭を手でなぐられた程度でも衝撃を受けた側に衝撃側損傷が見られる他に、直接衝撃を受けてない反対側に対側損傷を起こすことがある。

 その原因としては色々な説がある。

+慣性により頭蓋骨と脳の運動に時間的にずれが生じて、脳が反対側の頭蓋骨内面にも衝突するという説
+外力の振動波が脳の中を伝わって脳の反対側に達して、そこで運動エネルギーの破壊的爆発が起こるためという説

 対側損傷には発生部位に特徴がある。前頭部に外力が作用した場合は、後頭部の脳に対側損傷が起こることは極めて少ない。逆に、後頭部に衝撃を受けた場合は、前頭部の脳底に対側損傷がみられることが極めて多い。これは後頭部の頭蓋骨内面は比較的凹凸が少なく運動エネルギーが拡散しやすいが、前頭部は頭蓋腔が狭くなっている上に頭蓋内面の凹凸が著しいために運動エネルギーが集中しやすいからと考えられる。


*参考文献 [#w4997201]

-『法医学は考える』