電子書籍の選び方

どの電子書籍を選ぶか

一言に電子書籍といっても、様々な種類があります。ここでいう種類とは、配布されるファイル形式、提供しているサービス、電子書籍を読むための環境(プラットフォーム、端末、ソフトウェア)などです。

  • ファイル形式…PDF、EPUB、MOBI
  • サービス…Amazon Kindle、Kobo、Kinnopy、Apple Books、Google Playブックス
  • 読書環境(端末)…PC、スマホ、タブレット、電子書籍専用端末
  • 読書環境(ソフトウェア)…Kindle、Adobe Acrobat Reader

ここではIT技術書の電子書籍を読むうえで、重要なキーワードとトピックだけについて取り上げます。

電子書籍リーダーの特性を知る

電子書籍、その提供サービス、電子書籍リーダーのアプリや端末は切っても切り離せない関係にあります。Amazonで電子版を買えばKindle、楽天で電子版を買えば楽天Koboといったプラットフォームに依存する形態になります。

そのためメインに使っていく環境を決めたうえで、電子書籍を購入したほうが管理する手間が少なくて済みます。環境を決めるには、自分の読書スタイルに合う機能を備えているかをチェックします。個人的に重要な観点を次に列挙しました。

リーダー端末の選定

  • 価格…既存のスマホ、タブレット、PCを使えば無料。専用端末は導入コストがかかる。
  • サポートするファイル形式…電子書籍のファイル形式にはEPUB、PDF、Kindle形式(AZW)などがある。例えば、Kindle端末ではEPUB形式の電子書籍を直接読めません。EPUBからAZWに変換すればよいのだが、直接変換できるソフトウェアはほとんどない。そこでEPUBをMOBI形式に変換して、Kindleパーソナル・ドキュメントサービスに登録する。PDFも同じサービスを使えば読める。
  • 画質…綺麗だからといって読みやすいとは一概にいえない。眼に優しいことが重要。
  • 白黒・カラー…漫画や小説であれば白黒でもほとんど問題がない。雑誌や一部のIT技術書はカラー表示になる。商業誌であれば物理本をベースにして電子書籍を作ることが多い。そのため、物理本が白黒であれば電子書籍も白黒になる。物理本がカラーであれば、リフロー形式の電子書籍は白黒、固定レイアウト形式の電子書籍はカラーになる。一方、技術同人誌は電子書籍をベースにして物理本を作るので、カラーの電子書籍が多い。
  • ファイル容量…保存できる電子書籍の量に差が出る。
  • バックライト…周囲が真っ暗でも読めるか。
  • 動作スピード…アプリ起動、電子書籍の表示、ページめくり、辞書機能の軽快さ。時間がかかると読書効率が下がり、ストレスも溜まる。
  • 大きさ…一般に文字が小さいと読書効率が下がる。
  • 重さ…携帯性、手に持った場合の疲れやすさに直結する。
  • OS…Android、iOS、専用OSのどれであるか。別のアプリをインストールができるかどうかに直結する。
  • バッテリー…持ち時間、充電時間、交換可能かどうか。
  • 防水の有無…一部の機種は防水機能を備えているが、値段が高くなる。
  • 見開き機能…一部の大画面端末は、2ページに渡って描かれた迫力満点なシーンをそのままの勢いで味わえる。特に漫画に有効。

リーダーアプリの選定

  • 価格…ほとんどは無料だが、一部のソフトは有料。特にメモの書き込みを自由にできるタイプはそう。
  • ページめくり…動作速度(高速読みが可能か)、雰囲気、ページを大きく飛ばしやすいか。
  • 書籍の管理…登録した電子書籍のカテゴリー化、並び替え。
  • メモ機能…読書メインのアプリではメモ機能はあまり期待できない。メモ専用アプリにPDFをインポートすることで格段に使いやすくなる。
  • 購入本の陳列の方法や見た目
  • ブックマーク機能…特定のページに付箋を貼るような機能。
  • 読書の進捗状況の同期…複数の読書環境(スマホ+タブレットなど)のときに便利。
  • ハイライト…文に蛍光ペンを引く機能。気になる文にハイライトして、後で一覧表示できる。英単語をハイライトすれば、まとめて表示でき復習に活用できる。
  • 辞書機能…国語辞典、英和辞典、英英辞典。辞書の起動の素早さが重要。
  • 翻訳機能
  • 読み上げ機能…疑似的にオーディオブック化できる。
  • 読書時間の管理…Apple Booksは日々の読書時間を記録できる。
  • Kindle独自機能…ポピュラーハイライト(ハイライトのソーシャル機能。多くの人が共感した文がわかる)、Word Wise(難しい英単語を簡単な英語のフレーズにする機能)、Word Runner(1度に1語ずつ表示し、速読に挑戦する機能)
  • Kobo独自機能…Pocket機能(PCやスマホで登録したウェブ記事をKoboで読む)、高速ページめくり(紙の本をパラパラするのを再現)

Kindleを活用する

KindleはAmazonが提供している電子書籍サービスです。これまでのAmazonの成長から、Kindle本は今後も増加の一途を辿ると想像できます。

私は様々な電子書籍サービスを利用していますが、その中でもKindleはもっともよく活用しています。

固定レイアウト形式とリフロー形式

Kindle本はリフロー形式と固定レイアウト形式の2種類に分類できます。Kindle本の読書においては、2つの特徴を理解しておくことが重要です。それぞれの特徴は次の通りです。

  • リフロー形式
    • 本文テキストと構造(見出しはレイアウトなど)をデータとして管理している。
    • リーダーアプリやリーダー端末側でスタイルを変更すれば、文字サイズや行間を自由に変更できる。
    • 読み物はこちらの形式が多い。
    • 1文字ずつ選択できるので、コピー&ペーストしやすい。
    • 一部の技術書はリフロー形式を採用している。URLやソースコードをコピーできる。
  • 固定レイアウト形式
    • 1ページが1つの画像のようになっている。
    • ページ全体をズームできるが、文字だけを大きくするといったことは仕様上できない。

次の画像を見比べてください。前者はKindleアプリで『ハッキング・ラボのつくりかた』(リフロー形式)を表示したところです。テキスト選択ができています。一方、後者は『暗号技術のすべて』(固定レイアウト形式)を表示したところです。リフロー形式では数式の表現が困難になります。どうしても表示したければ数式を画像として表示させなければなりません。

技術書に固定レイアウト形式が多い理由

最近の技術書は電子書籍版も発売されることが多いといえます。

物理本を優先的に制作し、その後に電子書籍化します。電子書籍化にあたり、物理本の製作で用いたデータ(DTP)を使います。物理本と同じ見た目で、PDFやKindle本(固定レイアウト形式)に出力できます。一方、Kindle本(リフロー形式)ではそう簡単にはいきません。すべてのページに目を通して、レイアウトを調整しなくてはならないのです。つまり、技術書のリフロー形式は固定レイアウト形式よりもはるかにコスト(人的・時間・費用)がかかっています。

コストの問題により、プロダクション型の技術書は固定レイアウト形式が大半を占めます。逆にリフロー形式の技術書であれば、出版社に心の中から感謝しつつ、ありがたくその恩恵を享受しましょう。

Kindle本は相続できるのか

Kindleがこれほど普及し、将来的に拡大することを考えると、いずれ相続問題と直面することでしょう。
例えば、数千冊のKindle本を買っていた読書家の父が亡くなったとします。数千冊ということは、お金に換算すれば数百万円に相当します。物理本であれば相続人に渡せば済む話ですが、Kindle本の場合はどうなるのか気になる人もいることでしょう。

Amazon Kindleストア利用規約には、次のように記載されています。

Kindleコンテンツを回数の制限なく閲覧、使用、および表示する非独占的な使用権が付与されます(定額購読コンテンツの場合は、お客様が定額購読プログラムの有効な会員である限り。)。Kindleコンテンツは、コンテンツプロバイダーからお客様にライセンスが提供されるものであり、販売されるものではありません。

Kindleコンテンツまたはその一部に対するいかなる権利も第三者に販売、借用、リース、配信、放送、サブライセンス、ないしは別の方法で譲渡してはならないものとします。

https://www.amazon.co.jp/-/en/gp/help/customer/display.html?nodeId=201014950

Kindle本を購入しても所有したわけではなく、読む権利を得ただけということがわかります。「Kindle本は期限未定の貸本」と考えるとわかりやすいでしょう。

また、相続については直接言及されていません。「コンテンツ(ここでは電子書籍)の譲渡はできない」と明言されています。つまり、譲渡という意味では相続できないことを意味します。

もし継続して本を読むとしたら、執筆時点で次の2つのアプローチが考えられます。

  • ①父になりすます…Amazonにアカウント所有者が死亡したことを伝えず、そのアカウントを使って読む。
  • ②アカウントを変更する…アカウントサービスで情報(名前、メールアドレス、パスワード、支払い方法など)を変更できる。ここから相続人の名前・メールアドレスに変更すればよい。これはAmazonのアカウントを譲渡したことを意味する。

以上をまとめると、「Kindle本を譲渡できないが、Amazonのアカウントを譲渡できる」ので、結果的にKindle本を継続して読めます。注意点は既存のアカウントに統合はできないということです。つまり、相続人がすでにKindle本を所有しており、そこに被相続人のKindle本を追加する形で表示できないということです。被相続人のKindle本を読むためには「その被相続人のアカウントに切り替える」(①のアプローチ)か「相続人の別のアカウントに切り替える(②のアプローチ)しかないのです。使い勝手はかなり低下することは覚悟しなければなりません。

PDFを活用する

Kindleなどといった多くの電子書籍サービスは電子書籍を読む権利を得ているだけです。データをダウンロードしても専用の電子書籍リーダーを用います。このようにプラットフォームに大きく依存しています。プラットフォームが改善し続ければ使い勝手は向上しますが、プラットフォームが倒産したりサービスを止めてしまったりすると電子書籍を読めなくなってしまいます。アカウントを凍結されてしまった場合も同様です。読めなくなっても通常お金は戻って来ません。これらが起こる可能性は低いかもしれませんが、絶対にないとは言い切れません(こういった問題は電子書籍だけではありません。動画や音声のコンテンツも同様です。かつてMicrosoftストアでは電子書籍を販売したりレンタルしたりしていましたが、2019年にその事業から撤退し、購入済みの電子書籍がすべて削除されました。)。

こういったリスクを回避したければ、電子書籍のコンテンツを購入する方法があります。基本的にはPDFで提供され、場合によってはEPUBも提供されることがあります。こうしたデータを購入したら、ダウンロードして自分で管理しておけば安心です。ローカル環境に保存したデータが失ったとしても、通常はいつでも再ダウンロードできることが多いので問題ありません。万が一販売サービスが終了すると発表されたとしても、完全に終了するまでにデータをダウンロードしておけばよいわけです。

電子書籍のデータの取り扱いについては販売側の規約によりますが、大枠は共通しています。翔泳社でもSEshopでPDF版電子書籍を取り扱っており、次のような特徴を持ちます。

  • PDFなのでデバイスによらない…PDFビューワ(PDF閲覧ソフト)があれば、どんなデバイスでも表示できる。PC、スマホ、タブレットなど。
  • DRMフリー…DRM(不正コピーガード)に関する制限がかかっていないので、わずらわしい思いをしないで使える。
  • 個人の利用範囲内であれば複製可能…購入者が複数のPCや端末を持っていれば、それぞれにデータを入れられるということ。
  • それ以外の複製・共有は制限…他人にデータをあげたり、コンテンツを見せたりしてはいけない。例えば、社内サーバーにPDFを置いておき、複数人で読む行為は禁止。
  • PDFには購入者が識別できる個人情報(ユニークIDとメールアドレスなど)が埋め込まれる…PDFが流出したり、不正にPDFを配布したりしたら、その身元がばれるということである。
  • 印刷が可能…電子書籍を印刷して紙で読むといったこともできる。
  • テキスト選択が可能…テキストの検索、ソースコードやURLをコピー&ペーストできる。特にプログラミング本の読書に向く。