マインドコントロールとは、個人が自己自身の決定を行うときの人格的統合性を切り崩そうとするシステムのことである。
マインドコントロールの本質は、依存心と集団への順応を助長し、自律と個性を失わせることである。これは行動・思想・感情・情報をコントロールすることによって、達成される。
よって、マインドコントロールを良い方向へ使う場合と悪い方向へ使う場合が考えられる。マインドコントロールを悪用するのが、破壊的カルトである。
上記のように洗脳とマインドコントロールの区別が付くが、その境界線は曖昧である。
第二次世界大戦以来、世界中の情報機関が積極的にマインドコントロールの研究と開発に携わった。CIAは、1950年代初期からMKウルトラ(MK-ULTRA)という暗号名のもとに、麻薬、電気ショック、催眠の実験を行ってきたことを認めている。その後、研究は他の分野へも拡大している。
一世代前、心理学の人間潜在能力運動が、個人と集団の動態を支配する方法の実験を始めた。これらのテクニックは、まったく善意の動機から開発されたものであった。人々を弱らせている精神的袋小路から彼らをむりやり抜け出させて、自分がどんなに違った人間になれるかを教えてやろうという動機である。1960年代の後期に、感受性集会(sensitivity session)という集団治療の形態が人気を集めた。この集会では、人々は集団という場面で、自分の一番内面の個人的なことを他の人々と語り合うように促された。そのころ広く人気を集めたひとつのテクニックとして、熱い席(host seat)というものがある。熱い席とは、グループのメンバーのひとりが車座の真中に座り、他のメンバーがその人の欠点あるいは問題と思う点を挙げて彼に迫るのである。いうまでもないが、このようなテクニックは、経験を積んだ治療師の指導がないと、乱用される可能性がかなり高い。
多くの人々に影響を及ぼすようになったもうひとつの現象は、催眠術が神経言語プログラミング(NLP)というシステムを通じて大衆化したことであった。次第に多くの人々が、催眠によるトランスを引き起こすある種のテクニックを受けるようになった。しかし、多くの場合、無意識の心を扱うことの倫理的側面について、適切な配慮を欠いていた。
これらの集団的方法は、元々自発的な参加者だけに用いられ、大勢の人々から好ましい体験が報告された。ところがやがて、これらのテクニックのあるものは、通俗心理学として一般文化の中に広がっていき、誰でも悪用するようになっていった。無節操な人々が、信奉者の集団を巧妙に操作して金銭と影響力を獲得するために、これを利用し始めたのである。
元破壊的カルト集団だった人々の報告によると、特に熱い席がたびたび用いられていたそうである。
マインドコントロールは、認知的不協和理論として知られるようになった理論の中で心理学者のリアン・フェスティンガーが説明している3つの構成要素の分析を使うと、大体理解できるようである。
それぞれの構成要素が、他の2つに対して強い影響力を持つ。ひとつを変えると、他の2つもそれにつられて変わる傾向がある。3つをすべて変えることに成功すれば、個人など吹き飛ばされてしまう。
さらに、これに情報コントロールを含めるとさらにわかりやすくなる。
例:1956年、フェスティンガーは『予言が外れる時』という本を書いた。世の終わりを予告したウィスコンシン州の空飛ぶ円盤カルトについての本である。
カルトのリーダーは、他の天体からの異星人と精神的接触をしたと言った。信者たちは家を売り、金を寄付し、指定された日の翌朝、洪水が世界を滅ぼす前に、空飛ぶ円盤に拾い上げてもらおうと、ある山腹に夜通し立っていたのだった。
円盤も洪水もなく朝がやってきた(このグループについての数ある皮肉な話のひとつである)。そのとき、信者たちはさぞ幻滅し怒っただろうと思われるかもしれない。わずかの信者はそうだった。しかし、そうした信者はあまり時間や勢力を投資しなかった周辺的信者である。しかし、大部分のメンバーは、前よりもっと確信を深めた。ここで認知的不協和理論が影響した。
リーダーは、異星人が彼らの忠実な徹夜を見て、この地球を今回は許すことに決めたのだと宣言したのである。メンバーたちは、世間のひんしゅくを買う劇的立場をとった後、かえってますますリーダーにうちこむ結果となったのである。
マインドコントロールの4つの構成要素を識別できることは大切だが、疑いを抱いていない人々の行動を変えるのにそれが実際どう使われるかを知ることは、それとはまったく別の問題である。
マインドコントロールを達成するための3段階の過程は、表面上はごく簡単に見える。
・誰かに急激な変革を起こさせるには、まずその人の現実をゆさぶらなければいけない。教え込みをする側は、彼を混乱させなければいけない。彼が自分と周囲の状況を理解する思考の枠組みに揺さぶりをかけ、それを壊さなければならない。現実に対する彼の見方を混乱させれば、彼の防衛本能も武装解除され、今までの現実を否定するようなカルトの諸概念でも受け入れてしまうようになる。
・「解凍」は、様々な手法を使って達成できる。生理的に混乱させることは極めて効果的である。睡眠を奪うのは、人格を崩壊させる一番普通で強力な技術のひとつである。食事の内容や時間に新しい制限を加えるのも、混乱を起こさせるのに効果がある。あるグループは、低淡白・高糖度の食事や長期にわたる減食で、その人の情緒的安定を崩す。
・「解凍」が一番よく達成されるのは、人里離れた施設のように完全にコントロールされた環境であるが、ホテルの広間のようなもっと簡単に行ける場所でも、それはできる。
・人を解凍してその防御機構をはぐらかすためのもうひとつの強力な手段は、催眠である。特に効果的なのは、相手の混乱を利用してトランス状態を引き起こす技術である。
・二重の呪縛(double binds)のような催眠技術もまた、現実感覚を解凍する助けに使われる。二重の呪縛とは、一方で本人がみずから選んでいるのだという錯覚を与えながら、実はコントロールする側が望んでいることを強制的に行わせてしまうというものである。
・変革とは、ある人の古い人格が崩壊したために生じた空白に新しい人格を押し付けて、その空白を埋めることである。この新しい人格の教え込みは、セミナーや儀式のように形式ばって行われることもあるし、形式ばらずにに行われることがある。
・解凍の段階で用いられたのと同じテクニックの多くが、この段階にも持ち込まれる。
・反復、単調、リズムなどは、人をあやす効果のある催眠の衝動であり、形式ばった教え込みは、主にこの律動の中で行われる。教材は何度となく繰り返される。洗脳された講師は興味を持続させようとして話に変化を加えるが、趣旨は毎回同じである。
・変革の過程では、この反復はみないくつかの決まった中心的テーマに集中する。新会員は、世界がどんなに堕落しており、また心理を悟っていない人々はどんなにそれを正す道を知らないか、教えられる。それは、このあkるとの指導者がもたらした新しい理解を、一般の人々が持っていないためである。この指導者こそ、限りない幸福への唯一の希望なのである。新会員はこう教わる。
・変革のもうひとつの有効な方法は、霊的体験を誘発させることである。これは、しばしば実に巧妙に行われるようにできている。グループの中でその新入会員と一番新しい仲間が、彼のプライベートな情報を集めて密かに指導部へ渡す。後で、ある体験を作り出すのにぴったりの瞬間に、この情報が突然引き出される。多分何週間もたってから、別の状況の中で、リーダーは突然その新入会員の弟の自殺のことに触れる。そのことは、この新しい場所では確か誰にも話していないので、その新入会員は、リーダーが彼の考えを読んだか、あるいは霊界から直接情報を得ているのだと思う。彼は打ち負かされて、自分がもっとよい兄でなかったことに許しを乞うのである。
・もとの人格を壊されて新しい信念体系を教え込まれたら、その人は今度は「新しい男」(または「新しい女」)として再び作り上げなければならない。自分の新しい人格を固めるため、彼は人生の新しい目的と新しい活動を与えなければならない。
・最初の2つの段階で使われたテクニックの多くが、再凍結の段階へも持ち込まれる。カルトのリーダーたちとしては、その人がこの直接的なカルトの環境(人格改造の場)を去るとき、新しいカルトの人格が強いものになっているという確信が持てないと困る。新しい価値と信念が、この新会員の内面のものとなければならない。
・「新しい」人間の最初でもっとも重要な仕事は、以前の自分をさげすむことである。一番いけないのは、その人が自分らしく行動することである。
・再凍結の間、新しい情報を伝えていく主な方法は、「型にはめること」(modeling)である。新しいメンバーは、古いメンバー(新メンバーにコツを教えるのが任務)とペアを組まされる。
・新しい人格の再凍結を促進するため、あるカルトはその人に新しい名前を与える。
洗脳を含めて、広い意味でのマインドコントロールは一般的に次の3つの手順を取る。
一定情報の注入には次の3つのレベルがある。