第204条【傷害】
人の身体を傷害した者は、10年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。
ここでいう「人」とは殺人罪のときの「人」と同じ。つまり、死者・胎児・法人・自分を含まない。
「傷害」とは単に怪我させるに限らず、病気にさせるなど人の生理機能を害することすべてが対象となる。傷害を行う手段は、殺人罪と同様にナイフを使うといった有形的な方法だけでなくてもよい。例えば悪戯電話によって相手をノイローゼにさせることも傷害罪になる。
第208条【暴行罪】
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
暴行罪とは「人を傷害するに至らなかったとき」である。つまり、傷害の結果が発生しなかったというわけだ。例えば、傷害目的で殴ろうとしたが、それを相手にかわされ怪我をさせることができなかった場合などである。つまり、暴行罪は傷害未遂を処罰対象にしているといえる。
暴行の故意だけで傷害結果を発生させてしまった場合、209条【過失致傷罪】を適用するというアプローチもあるが、これでは30万円以下の罰金に過ぎず、刑罰が軽すぎるので問題がある。そこで、傷害罪を適用させるのだ。つまり、傷害罪を暴行罪の結果的加重犯とみるわけである。ただし、この解釈には難点がある。結果的加重犯では、条文に「よって〜させた」という表現があるはずだが、傷害罪にはそのような表現はない。
また、傷害の故意がある場合はもちろん傷害罪になる。
以上のことから、傷害罪は故意犯と暴行罪の結果的加重犯の双方を含む罪ということだ。
こうした解釈は他の身体を保護法益とする罪に対するものではよく使われる。
刑法上暴行とは何を指すのかを明確にしなければならないだろう。一番基本となる概念は有形力の行使ということである。この行使がどのぐらい範囲までを対象としているかによることで考える。その範囲を場合分けで考えてみる。
もっとも広い範囲で考えるとこうなる。人だけでなく物に対しても対象ということだ。例えば、第106条【騒乱罪】における暴行がそうである。例えば車をひっくり返すなどの行動である。これは騒乱罪の保護法益が社会の平穏だからだ。地域住民の財産が奪われたり、怪我をさせられるかもしれないと不安感を感じるような事態を防止するのが騒乱罪の目的である。
これは人の身体に向けられていない場合も含む。例えば、公務執行妨害罪の暴行は、公務員の身体に直接向けられなくても、職務の執行が妨害される結果になるようなものも対象に含まれるのである。
物理的な接触に関係なく、人の身体に危険が及ぶかどうかが重要となる。暴行罪の保護法益は身体の安全なので、暴行罪の暴行はこの範囲のものとなる。
反抗抑圧に足る程度の強度のものに対するということだ。これは相手に抵抗する気すらなくなる程度の暴行を加えることに限定した場合である。強盗罪・強姦罪の成立にはこれとほぼ同程度の暴行が必要といわれている。これは両者の法定刑が重く、より凶悪な場合を予定していると考えられているからである。
第207条【同時傷害の特例】
2人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。
この条文は同時犯に関する規定である。同時犯とは意志の連絡なく、同一機会*1に、同一客体に、同一の犯罪を実行した場合のことである。
2人以上なので、傷害の軽度を知ることができない、即ちどちらがどの傷を負わせたかわからないときを考える必要がある。同時犯のように複数の攻撃が加えられた場合は、誰の暴行によって最終的な結果(例えば致命傷など)が発生したかを立証することは難しいから、これはよく起こることといえる。
原則論からいうと、因果関係がわからない以上は本件の甲乙に完全な罪責を問うことはできない。傷害未遂罪、即ち暴行罪で処断するしかないわけだ。といっても同時犯のときに罪を下げるのは妥当ではない。そこで刑法では、例外的に意志の連絡なくても共犯規定によって処罰されることにしたわけである。
意志の連絡なしということだから、その適用範囲は厳密に考えなければならない。殺人罪などその他の犯罪には、この規定を拡大して適用することは絶対にできない。ただし、傷害致死罪に問題がちょっと起きることがある。例えば2人以上が暴行して、被害者を殺してしまったとする。このとき、甲乙いずれの(殺意のない)暴行により、死の結果が発生かどうかわからない。そうした場合に、同時犯の特例を適用するが、有力な反対説も存在する。