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【STEP03】非反転増幅回路 — 入力と同じ向きに増幅する回路【オペアンプ入門学習キット編】

「手と頭で覚える キットで遊ぼう電子回路シリーズNo.8 オペアンプ入門」(ADWIN CORPORATION)の学習記録です。
前回のSTEP02では反転増幅回路を学びました。入力信号を増幅しつつ位相を180°反転させる回路でした。
今回のSTEP03では非反転増幅回路(Non-Inverting Amplifier)を扱います。名前の通り、入力信号を反転させずに増幅する回路です。
反転増幅回路と非反転増幅回路は、オペアンプの2大基本回路です。この2つの違いと使い分けを理解すれば、オペアンプの基礎はほぼ固まったといえます。

この記事で得られること

  • 非反転増幅回路の動作原理と増幅率の公式を理解できる
  • 反転増幅回路との違い(位相・入力インピーダンス・最小ゲイン)を整理できる
  • 2つの基本回路の使い分けの判断基準が身につく

前提作業

STEP02までの内容を理解していることを前提とします。とくに仮想短絡(イマジナリーショート)負帰還の概念は本記事でも使います。

どうして「非」反転回路というのか?

ここまで学習してきて、ふと疑問を感じないでしょうか。

  • 反転回路は単に「増幅回路」と呼べばいいのでは?
  • なぜわざわざ「非」をつけて非反転増幅回路と呼ぶのか?
  • 反転増幅回路がSTEP02で、非反転増幅回路がSTEP03なのはなぜ?

実はこれには理由があります。実際には、反転増幅回路の方が安定していて広く使われているため、反転増幅回路こそがオペアンプ回路の基本形として扱われています。そのような基本形である反転増幅回路に対して「反転しない方」ということで、「非」反転増幅回路と呼ぶのです。

歴史的にも回路設計の実務においても、反転増幅回路がまず登場し、非反転増幅回路はその変形として位置づけられています。

非反転増幅回路とは

非反転増幅回路は、入力した波形を反転させずにそのまま出力させる回路です。

たとえば、入力波形が「山→谷」なら出力波形も「山→谷」です。増幅率G=1なら出力波形は「山は山」のまま変わりません。G>1なら出力波形は「山は山」のまま振幅だけ大きくなります。

反転増幅回路との最大の違いは、入力信号の接続先です。

反転増幅回路(STEP02)非反転増幅回路(STEP03)
入力信号の接続先(−)端子(R1経由)(+)端子(直接)
(+)端子の接続先GND入力信号
(−)端子の接続先入力信号(R1経由)R1とR2の接続点

基本回路図

  • R1:接地抵抗((−)端子からGNDへ)
  • R2:帰還抵抗(出力から(−)端子へのフィードバック)
  • 入力信号は非反転入力端子(+)に直接接続

反転増幅回路と同様に、R2が出力端子から反転入力端子(−)に接続されている点は変わりません。これも負帰還(ネガティブ・フィードバック)の構成です。

非反転増幅回路の2つの特徴

教材では、非反転増幅回路の特徴として以下の2点が挙げられています。

特徴1:入力と同じ向きで信号を出力する

反転増幅回路では出力が入力に対して180°反転しましたが、非反転増幅回路では入力と出力が同相です。増幅率を設定できる点は同じですが、出力の極性が反転しません。

特徴2:増幅率はR1, R2の比率で決まる

これは反転増幅回路とまったく同じ原理です。増幅率が外付け抵抗の比率だけで決まるという、負帰還回路の最大のメリットがここでも活きています。ただし、増幅率の計算式は異なります(後述)。

動作原理の理解:反転増幅回路との比較から

反転増幅回路は「シーソー」だった

STEP02では、仮想接地点(X点)をシーソーの支点に見立てて動作を理解しました。X点は0V(GND電位)に固定され、入力が上がれば出力が下がり、入力が下がれば出力が上がります。X点を中心に入力と出力が逆方向に動く構造でした。

非反転増幅回路は「積み上げ」

非反転増幅回路の動きはまったく異なります。シーソーではなく、ブロックの積み上げをイメージしてください。

反転増幅回路(左)は、X点(0V)を支点にしたシーソーです。入力が+1Vに上がると、X点を挟んで反対側の出力は−1Vに下がります。

非反転増幅回路(右)は、0V(GND)を土台にしたブロックの積み上げです。R1ブロックが0Vから+1Vまでを担当し、その上にR2ブロックが+1Vから+2Vまでを担当します。仮想短絡によりX点は入力電圧(+1V)と同じになるため、R1ブロックの高さが入力電圧で決まり、R2ブロックがさらに上に積み上がって出力電圧になります。

ポイント:

  • 反転増幅回路:X点(0V)が支点 → 入力と出力が逆方向に動く
  • 非反転増幅回路:0V(GND)が土台 → 入力と出力が同じ方向に動く

具体例:R1 = R2の場合(増幅率2倍)

入力Vi = +1Vのとき、積み上げで考えます。

  1. (+)端子に+1Vが入力される
  2. 仮想短絡により、X点の電位も+1Vになる(X点 = Vi)
  3. R1はX点(+1V)からGND(0V)までの1V分を担当する
  4. R1 = R2なので、R2も同じ1V分を担当する
  5. R2はX点(+1V)の上に積み上がるので、出力は+1V + 1V = +2V

したがって 出力 Vo = +2V(入力と同極性、2倍に増幅)です。

反転増幅回路では R1 = R2 のとき増幅率は1倍(等倍)でしたが、非反転増幅回路では2倍になります。これは数式にも表れている違いで、「1 +」(第1項)増幅率の数式による導出の分だけ常に大きくなります。

前提条件

STEP02と同じ理想オペアンプの仮定を用います。

特性理想値意味
開ループ利得仮想短絡が成立する
入力インピーダンス入力端子に電流が流れない
出力インピーダンス0負荷に影響されず電圧を供給できる

導出

回路図(図3-2)を見ながら追いかけます。

入力電圧Viは(+)端子(b点)に直接入力されます。

仮想短絡より、a点の電位 Va = Vb = Vi。

出力電圧VoはR1とR2で分圧され、X点(= a点)に帰還されます。X点の電圧をR1とR2の分圧式で表すと:

$$V_a = \frac{R_1}{R_1 + R_2} \times V_o$$

仮想短絡よりVa = Viなので:

$$V_i = \frac{R_1}{R_1 + R_2} \times V_o$$

Voについて解くと:

$$V_o = \frac{R_1 + R_2}{R_1} \times V_i = \left(1 + \frac{R_2}{R_1}\right) V_i$$

増幅率(ゲイン)の公式

$$\boxed{V_o = G_v \times V_i}$$

$$\boxed{G_v = 1 + \frac{R_2}{R_1}}$$

反転増幅回路との比較:

反転増幅回路非反転増幅回路
増幅率G = R2/R1Gv = 1 + R2/R1
出力電圧Vo = −G × ViVo = Gv × Vi
符号マイナス(反転)プラス(同相)
R1 = R2 のときG = 1(等倍)Gv = 2(2倍
最小増幅率0(R2 = 0Ω)1(R2 = 0Ω)

ポイント:

  • 非反転増幅回路の増幅率は常に1以上になる(「1 +」があるため、R2をゼロにしても最小値は1)
  • マイナス符号がない → 出力は入力と同相(反転しない)
  • 増幅率は反転増幅回路と同様に外付け抵抗R1とR2の比だけで決まる

入力インピーダンスの違い:非反転増幅回路の大きなメリット

STEP02で学んだように、反転増幅回路の入力インピーダンスはR1に等しく、あまり高くありません。R1を大きくすればインピーダンスは上がりますが、増幅率を維持するためにR2も大きくしなければならず、ノイズ増加のトレードオフがありました。

非反転増幅回路では、入力信号がオペアンプの(+)端子に直接接続されます。オペアンプの入力インピーダンスは非常に高い(理想的には無限大)ため、非反転増幅回路の入力インピーダンスも非常に高くなります

$$Z_{in}(\text{反転}) = R_1 \qquad Z_{in}(\text{非反転}) \approx \infty$$

これは実用上の大きなメリットです。信号源にほとんど電流を流さないため、信号源電流をほとんど消費しません。センサーの受け回路など、高インピーダンスの信号源を扱う場面で非反転増幅回路が選ばれる理由はここにあります。

反転増幅回路 vs 非反転増幅回路:使い分け

STEP02とSTEP03の内容を踏まえて、2つの回路の使い分けを整理します。

反転と非反転の比較

反転増幅回路を選ぶ場面

  • 位相反転が必要な場合(符号反転)
  • 複数の信号を加算したい場合(加算回路への応用)
  • 増幅率1未満(減衰)が必要な場合
  • 仮想接地点を利用した精密な電流−電圧変換

非反転増幅回路を選ぶ場面

  • 信号源のインピーダンスが高い場合(センサー出力など)
  • 位相を反転させたくない場合
  • バッファー(ボルテージフォロワー)として使いたい場合(R2 = 0, R1 = ∞ で Gv = 1)

実験:非反転増幅回路を組んで確認する

実験条件

パラメーター
R110kΩ
R222kΩ
※問題03のR2は33kΩですが、実験のR2は22kΩです。以降の実験でも同様の不一致はありますので注意してください。
増幅率 Gv1 + 22k / 10k = 3.2倍
入力信号正弦波(キット内蔵の発振器、周波数780Hz)

確認すべきポイント

  • [ ] 回路を組めたか
  • [ ] 出力信号が入力に対して同相であるか(位相が反転していないか)
  • [ ] R1, R2の抵抗値を変えると増幅率は変わるか

実験結果

オシロスコープで入力波形と出力波形を同時に観測しました。

  • CH1(入力・赤):Vi = 2.8Vpp
  • CH2(出力・黄):Vo = 9Vpp

実測の増幅率は 9 / 2.8 ≈ 3.21倍で、理論値3.2倍とほぼ一致しています。

STEP02との決定的な違いを観測で確認できました。入力波形(赤)と出力波形(黄)が同相です。山と山、谷と谷がぴったり揃っています。反転増幅回路(STEP02)では山と谷が入れ替わっていたことを思い出してください。

STEP02の教訓が活きた

STEP02では入力振幅が大きすぎて出力が飽和し、矩形波(台形波)になるトラブルに遭遇しました。今回はその教訓を活かし、あらかじめ計算で確認しました。

  • 入力:2.8Vpp
  • 増幅後:2.8 × 3.2 = 8.96Vpp
  • 電源電圧:±6V → 出力限界は約±5V(= 10Vpp)

8.96Vpp < 10Vpp なので出力は飽和の範囲内です。実際にきれいな正弦波が出ました。STEP02で分圧回路を追加して入力振幅を下げていた効果がここでも効いています。

練習問題

条件:R1 = 10kΩ、R2 = 33kΩ

問1:入力信号電圧が直流の +2.0Vdc のとき、出力電圧はいくらか?(電源電圧 ±6V)

解答:約5Vdc(飽和)

計算上は:

$$V_o = \left(1 + \frac{33k}{10k}\right) \times 2.0 = 4.3 \times 2.0 = 8.6 \text{ Vdc}$$

しかし、このキットのオペアンプの電源電圧は±6Vです。出力限界は約±5Vなので、8.6Vは出せません

したがって、実際の出力は約+5Vdcで飽和(クリップ)します。

STEP02の練習問題(問3)でも同じ飽和の話が出てきました。反転増幅回路では Vi = -3.0V のときに +9.9Vdc が必要になり飽和しましたが、今回も同じ構造の問題です。増幅率が大きい回路では、つねに飽和しないかを確認する習慣が重要です。

問2:交流の入力信号電圧が 1.0Vpp のとき、出力電圧はいくらか?

解答:4.3Vpp

$$G_v = 1 + \frac{33k}{10k} = 4.3$$

$$\text{出力} = 4.3 \times 1.0\text{Vpp} = 4.3\text{Vpp}$$

STEP02の練習問題(問2)で学んだように、Vppは波形の「山から谷までの幅」を表す量であり、常に正の値をとります。非反転増幅回路では位相が反転しないため、反転増幅回路のときのような符号の混乱は起きません。素直にゲインをかけるだけです。

4.3Vppは電源電圧の出力限界(約10Vpp)の範囲内に収まっているため、飽和せずきれいな正弦波が出力されます。

まとめ

項目内容
出力電圧Vo = Gv × Vi
増幅率Gv = 1 + R2 / R1
増幅率の決定要素外付け抵抗の比のみ(オペアンプ特性に非依存)
入力インピーダンス非常に高い(オペアンプの入力Zそのもの)
位相入力と同相(反転しない)
帰還方式負帰還(ネガティブ・フィードバック)
最小増幅率1(ボルテージフォロワー)

反転増幅回路 vs 非反転増幅回路:総合比較

項目反転増幅回路(STEP02)非反転増幅回路(STEP03)
出力電圧Vo = −G × ViVo = Gv × Vi
増幅率G = R2 / R1Gv = 1 + R2 / R1
位相180°反転同相
入力インピーダンスR1(低い)非常に高い
最小増幅率01
帰還方式負帰還負帰還

身の回りで使われている例

増幅回路は家電や精密機器の中に数多く組み込まれています。ふだん意識することはありませんが、信号を扱う電子機器にはほぼ確実にオペアンプが入っています。

機器使用回路役割
ヘッドホンアンプ反転 / 非反転音声信号の増幅
マイクプリアンプ非反転マイクの微弱信号を扱いやすいレベルまで増幅(高入力Z)
体温計・体重計非反転温度センサーやロードセルの微弱信号を増幅(高入力Z)
DJミキサー反転(加算回路)複数の音声入力を1つに合成
スマートウォッチ非反転心拍センサーや加速度センサーの信号増幅
USB DAC非反転(バッファー)デジタル→アナログ変換後の出力段

ハッキング・セキュリティで使われている例

セキュリティの文脈でも、増幅回路は重要な役割を果たしています。とくにハードウェアセキュリティの分野では、オペアンプの知識が直接役立ちます。

用途使用回路解説
サイドチャネル攻撃(電力解析)非反転ICチップの電源ラインに流れる微弱な電流変動を増幅し、暗号鍵を推定する。シャント抵抗で電流を電圧に変換 → 非反転増幅 → オシロスコープで解析という構成
TEMPEST(電磁波盗聴)非反転モニターやケーブルから漏洩する微弱な電磁波を受信・増幅して映像を復元する。受信アンテナが高インピーダンスなため非反転増幅回路が適する
バスプローブ(通信傍受)非反転(バッファー)I2C/SPI/UARTなどの通信バスを傍受する際、信号を劣化させずにタップするためGv=1のバッファーを使用
グリッチ攻撃反転電源ラインに意図的な電圧グリッチを注入してICの動作を誤らせる。波形の極性制御に反転増幅回路を使うことがある

ChipWhispererなどのオープンソースのサイドチャネル攻撃ツールの回路図を見ると、STEP02/03で学んだ増幅回路がそのまま使われています。オペアンプの基礎は、ハードウェアハッキングの入り口でもあります。

STEP02(反転増幅回路)とSTEP03(非反転増幅回路)で、オペアンプの2大基本回路を学びました。増幅率が抵抗比で決まること、仮想短絡が動作の鍵であること、飽和に注意すること。これらの共通原理を理解したうえで、位相・入力インピーダンス・最小ゲインの違いに応じて使い分けることが大切です。