はじめてIT技術書を商業出版する方法
はじめに
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コーストFIRE中のIPUSIRONです😀
IT技術書の商業出版への道
- ①広く支持された成果物(ソフトウェア、サービス、本、論文)があれば、出版関係者からコンタクトがある(かもしれない)
- ②ブログ、YouTube、SNS、オフラインイベントでの知名度が上がれば、出版関係者からコンタクトがある(かもしれない)。
- ③出版経験のある人に相談をする。
- ④同人誌デビューしておく。
- ⑤出版社は随時企画・原稿を募集しているので、自薦する。
①成果物を公表する
出版社にとって、もっとも気になるのは著者が1冊を完成させる能力があるかどうかです。何らかの成果物があれば、本もきちんと完成させられると期待されます。そのため、同人誌、ブログ記事、YouTube動画といった成果物があると、出版社から声がかかりやすくなります。これらの成果物を完成させる力があれば、出版関係者からの関心を引くことができます。
また、成果物をベースにして本を書けば、ゼロから書くよりも執筆の時間を短縮できるはずです。出版社側は一般に短い期間で原稿を書き上げてくれるほうが喜びます。どんなに実力があっても原稿を書き上げるのに1年かかる人より、実力がそこそこでも4ヶ月で原稿を書き上げる人のほうが評価されがちです(出版はビジネスなので当たり前)。
②知名度を上げる
知名度を測る指標としては、YouTubeのチャンネル登録者数、X(旧Twitter)やインスタグラムのフォロワー数、ブログのアクセス数などがあります。
知名度があるということは、何らかのプラットフォームで情報を発信していることを意味します。つまり、すでに何らかの成果物が存在していると考えられ、①の条件も満たしていることになります。そして、①だけでなく、②も満たすことで、出版の可能性が大きく高まります。
出版社側から見れば、「知名度がある=ファンによる一定の売上が見込める=大きな失敗のリスクが減る」と判断されるからです。
③経験者のコネを使う
懇意にしている筆者がいれば、本を書きたいという希望を伝えておくことは有効です。
ただし、「今すぐ書きたい」という希望を伝えると、相手の負担になる可能性があります。出版の世界ではタイミングが重要であり、積極的に動いても仕事につながるケースは多くありません。
たとえば「○○の分野を専門としており、本や翻訳に興味があります」といったように、相手の負担にならない程度に希望を伝えるのがよいでしょう。
しかし、一方的に自分の主張を伝えるだけでは、相手には響きません。何度も顔を合わせて親しくなることや、何らかの形で貢献しておくことが大切です。金銭的なことでなくても構いません。例えば「Xで頻繁にリポストする」「本の宣伝をする」「レビューを書く」「懇親会で声を掛ける」などでも良いのです。とくに、相手の本を一冊も買わずにお願いするようでは、よい印象は持たれません。
相手には他の人からもさまざまなコンタクトがあるため、ライバルが多いことを意識する必要があります。差別化を図るために、相手が覚えてくれるようなアクションを継続し、耳を傾けてもらえたら、熱意を持って希望を伝えることが有効です。
私の場合、仕事の依頼の約7割を断っています。その理由は、「他の仕事で手が回らない」「私には荷が重い」「気が乗らない」など、さまざまです。しかし、完全に断るのがもったいない案件であれば、懇意にしている人や知り合いに案件を回すこともあります。
たとえば『暗号技術 実践活用ガイド』もそうした背景で生まれた本です。最初は私に翻訳の依頼がきましたが、他の本にリソースを割かなければならず、この仕事には取り掛かれませんでした。通常ならリスケするしかないところ、タイミングよくSmokyさんから相談を受けていたため、Smokyさんを翻訳者にするのはどうかという提案をしました。その提案が受け入れられ、Smokyさんが翻訳し、私が監訳する形で出版されました。その後、Smokyさんは何冊も翻訳するほど活躍しています。
余談ですが、カンファレンスで発表したり、論文を発表したりしていて、その業界ではそこそこ知名度があるにもかかわらず、執筆・翻訳の依頼がこないという人もいるかもしれません。また、「あの本を自分が書けばもっとよいものになったはずだ」と感じている人もいるでしょう。
ここまで読んだ方なら想像がつくでしょうが、この場合、あなたが出版社や編集者の手札に入っていない可能性があります。いくら実力があっても、手札に入っていなければ依頼はきません。
そして、たとえ手札に入っていても、もっと強力な手札がある場合、依頼の優先度は下がります。ここでいう「強力」とは、知識だけを指すわけではありません。出版社側にとって使いやすいという意味です。具体的には「依頼しやすい」「締め切りを守る」「執筆期間が常識の範囲内」「編集しやすい原稿を提出する」「品質の高い原稿を提出する」「売れた実績がある」「専門分野以外でも拡散力がある」などが挙げられます。ただし、教科書や学術書の場合は例外です。
④同人誌を出しておく
現在は技術同人誌即売会が盛んに行われているため、技術書の同人誌を出すハードルは大幅に下がっています。
同人誌は一般的に薄く、筆者が書きたいネタを凝縮することができます。一方で、商業誌は最低でも250ページが必要で、筆者のモチベーションが上がらない部分も多く書かなければなりません(これが商業誌の著者の腕の見せ所でもあります)。
そのため、同人誌の方が圧倒的に書き上げる成功率が高まります。同人誌を書くことは商業誌へのステップアップとして非常に有効です。
頒布した同人誌の出来がよければ、出版社から声がかかる可能性もあります。技術書典や技書博ではアワードへの応募も募集されています。これで賞を取れば、一気に注目され、声がかかる可能性が高まります。ちなみに、技術書典のアワードで大賞を受賞すると、出版社PEAKSより技術書クラウドファンディングの権利が得られます。
私が「商業出版したい」という相談を受けた際には、基本的に「同人誌を出すのが近道」とアドバイスしています。
⑤企画・原稿を持ち込む
「こういうものが書きたい」「自分はこれが書ける」という企画だけでなく、ある程度完成した原稿を持ち込むことが重要です。
すでに同人誌デビューをしている場合は、そのことを明かし、同人誌を見せると話がスムーズに進みます。同人誌の内容と持ち込む企画がまったく異なる場合でも、同人誌を見せるべきです。同人誌という実物があれば、たとえ本のテーマが違っても、あなたの文章力や構成力を判断する材料となります。また、1冊を作り上げたという実績が、よい印象を与えるでしょう。