【STEP04】加算回路 — 複数の信号を足し算する回路【オペアンプ入門学習キット編】
目次
はじめに
いつもブログをご覧いただきありがとうございます。
ミジンコに転生したIPUSIRONです😀
「手と頭で覚える キットで遊ぼう電子回路シリーズNo.8 オペアンプ入門」(ADWIN CORPORATION)の学習記録です。
前回のSTEP03では非反転増幅回路を学びました。STEP02(反転増幅回路)とSTEP03(非反転増幅回路)で、オペアンプの2大基本回路を押さえたことになります。
今回のSTEP04では加算回路(Summing Amplifier)を扱います。名前の通り、複数の入力信号を足し算して1つの出力にまとめる回路です。
「足し算」と聞くとシンプルに思えますが、ここにはオペアンプの仮想接地とキルヒホッフの電流則が絡み合う美しい動作原理があります。
この記事で得られること
- 加算回路が反転増幅回路の「自然な拡張」であることを理解できる
- キルヒホッフの電流則(KCL)による公式の導出過程を追える
- 重み付き加算と等価加算の違いと使い分けがわかる
前提作業
STEP02〜03の内容を理解していることを前提とします。とくに仮想短絡(イマジナリーショート)と仮想接地の概念は本記事でも使います。
加算回路とは
加算回路は、文字通り2つ以上の信号を足し算して出力する回路です。
たとえば、2つの入力波形の周波数と振幅が同じで位相も同じなら、出力は振幅が2倍(正確には重み付き)の波形になります。一方、位相が180°ずれた2つの正弦波を加算すると、互いに打ち消し合って出力はゼロに近づきます。
加算回路の基本は入力が2つですが、入力を3つ、4つ…と増やすことも容易です。入力をいくつでも増やせる拡張性が、この回路の大きな特徴です。
回路の構造:反転増幅回路の「入力を増やしただけ」
加算回路の回路図を見ると、すぐに気づくことがあります。STEP02で学んだ反転増幅回路に、入力が1つ増えただけです。

- R1:入力1(Vi1)の入力抵抗
- R2:入力2(Vi2)の入力抵抗
- Rf:帰還抵抗(出力から(−)端子へのフィードバック)
- (+)端子はGNDに接続
反転増幅回路との違いは、(−)端子(仮想接地点)に向かって複数の入力抵抗が並列に接続されていることだけです。オペアンプの動作原理は反転増幅回路とまったく同じで、仮想短絡により(−)端子は0V(仮想接地)になっています。
この「入力を増やすだけ」という構造のシンプルさが、加算回路の最大の美点です。
反転波形が加算されていることになります。
公式の導出:キルヒホッフの電流則(KCL)
仮想接地点での電流の流れ
加算回路の公式は、仮想接地点(点b)におけるキルヒホッフの電流則(KCL)で導けます。

理想オペアンプの仮定(STEP02で学んだもの)を使います。
| 特性 | 理想値 | 意味 |
|---|---|---|
| 開ループ利得 | ∞ | 仮想短絡が成立する |
| 入力インピーダンス | ∞ | 入力端子に電流が流れない |
| 出力インピーダンス | 0 | 負荷に影響されず電圧を供給できる |
ステップ1:各入力の電流を求める
(+)端子がGNDに接続されているため、仮想短絡により(−)端子(点b)も0Vです。
各入力抵抗を流れる電流は、以下のようになります。
$$i_1 = \frac{V_{i1}}{R_1}, \qquad i_2 = \frac{V_{i2}}{R_2}$$
ステップ2:KCLを適用する
点bにおいて、オペアンプの入力端子には電流が流れない(入力インピーダンス = ∞)ため、i1とi2はすべて帰還抵抗Rfを通って出力側に流れます。
ここでKCL(キルヒホッフの電流則)を適用します。KCLは一般に「ノードに流入する電流の総和 = 0」の形で書きます。すべての電流を同じ向き(流入を正)に揃えて機械的に式を立てられるため、複雑な回路でもミスが起きにくいからです。
すべての電流を点bに流入する方向を正と定義すると、以下の関係式が得られます。
$$i_1 + i_2 + i_f = 0$$
ここで if は Rfを通って出力側から点bに流入する方向で定義した電流です。
$$i_f = -(i_1 + i_2)$$
マイナスの意味: ifはi1・i2とは逆方向に流れるということです。
i1とi2が点bに流れ込む一方、ifは点bから流れ出てRfを通って出力側に向かいます。入ってきた電流は、オペアンプ入力端子には流れない(理想オペアンプ)ので、Rfを通って出ていくしかないのです。
別の見方:「流出を正」でも結果は同じ
直感的には、流入した電流がそのまま流出するので if = i1 + i2(流出を正とした場合)と考える方がわかりやすいかもしれません。実は、どちらの符号規約を使っても最終結果は一致します。
流儀A:流入を正とした場合(教材の方法)
すべての電流を「点bに向かう方向」を正と定義します。
- i1 = Vi1/R1(Vi1側 → 点bへ。流入なので正)
- i2 = Vi2/R2(Vi2側 → 点bへ。流入なので正)
- if = Vo/Rf(出力側 → 点bへ。流入方向で定義)
KCLより、以下の関係式が成り立ちます。
$$i_1 + i_2 + i_f = 0$$
$$\frac{V_{i1}}{R_1} + \frac{V_{i2}}{R_2} + \frac{V_o}{R_f} = 0$$
よって、Voについて以下のように計算できます。
$$V_o = -R_f\left(\frac{V_{i1}}{R_1} + \frac{V_{i2}}{R_2}\right) = -\left(\frac{R_f}{R_1} V_{i1} + \frac{R_f}{R_2} V_{i2}\right)$$
流儀B:流出を正とした場合
すべての電流を「点bから出ていく方向」を正と定義します。
- i1′ = −Vi1/R1(点b → Vi1方向。実際は逆に流れるので負)
- i2′ = −Vi2/R2(同上)
- if’ = −Vo/Rf(点b → 出力方向で定義)
KCLより、以下の関係式が成り立ちます。
$$i_1′ + i_2′ + i_f’ = 0$$
$$-\frac{V_{i1}}{R_1} – \frac{V_{i2}}{R_2} – \frac{V_o}{R_f} = 0$$
よって、Voについて以下のように計算できます。
$$\frac{V_o}{R_f} = -\frac{V_{i1}}{R_1} – \frac{V_{i2}}{R_2}$$
$$V_o = -R_f\left(\frac{V_{i1}}{R_1} + \frac{V_{i2}}{R_2}\right) = -\left(\frac{R_f}{R_1} V_{i1} + \frac{R_f}{R_2} V_{i2}\right)$$
流儀A・Bともに同じ結果になりました。 2つの式は全体に−1を掛けただけの関係なので、Voは必ず一致します。
つまり、マイナスが出てくるかどうかは「電流の正方向をどちらに決めたか」という書き方の問題にすぎません。物理的に起きていることはどちらの流儀でも同じで、「i1とi2が点bに流れ込み、その合計がRfを通って出ていく」だけです。
まとめ:加算回路の出力電圧の公式
$$\boxed{V_o = -\left(\frac{R_f}{R_1} V_{i1} + \frac{R_f}{R_2} V_{i2}\right)} \quad \cdots \text{式4-1}$$
n入力への拡張
入力を3つ以上に増やしても、同じ論理が成り立ちます。
つまり、入力抵抗をR1, R2, …, Rnとすると、以下のようになります。
$$\boxed{V_o = -\left(\frac{R_f}{R_1} V_{i1} + \frac{R_f}{R_2} V_{i2} + \cdots + \frac{R_f}{R_n} V_{in}\right)} \quad \cdots \text{式4-2}$$
反転増幅回路に入力を1本ずつ追加するだけで、何本でも加算できます。この拡張性こそ、加算回路が広く使われる理由です。
重み付き加算と等価加算
式4-1をよく見ると、各入力にRf/R1やRf/R2という「重み(ゲイン)」がかかっています。入力抵抗の値を変えることで、入力ごとに異なる増幅率を設定できます。
重み付き加算(R1 ≠ R2)
R1とR2が異なると、各入力への重みが変わります。
たとえば Rf = 33kΩ、R1 = 33kΩ、R2 = 22kΩ の場合:
- Vi1の重み:Rf/R1 = 33k/33k = 1.0倍
- Vi2の重み:Rf/R2 = 33k/22k ≈ 1.5倍
$$V_o = -(1.0 \times V_{i1} + 1.5 \times V_{i2})$$
Vi2の方が1.5倍大きく効きます。DJミキサーでボーカルのチャンネルだけ音量を大きくしたい場面を想像するとわかりやすいでしょう。
等価加算(R1 = R2 = Rf)
すべての入力抵抗を帰還抵抗と同じ値にすると:
$$V_o = -\frac{R_f}{R_1}(V_{i1} + V_{i2}) = -(V_{i1} + V_{i2})$$
各入力に対する重みが等しい(すべて1倍)ため、純粋な「足し算」になります。ただし符号は反転します。
実験:加算回路を組んで確認する
実験条件
| パラメーター | 値 |
|---|---|
| R1 | 33kΩ |
| R2 | 22kΩ |
| Rf | 33kΩ |
| 入力信号 | 正弦波(キット内蔵の発振器、周波数780Hz) |
| Vi1 | 3.16Vpp |
| Vi2 | 3.16Vpp |

理論上の出力を予測する
実験の前に、出力を計算しておきます。
$$V_o = -\left(\frac{33k}{33k} \times 3.16 + \frac{33k}{22k} \times 3.16\right) = -(3.16 + 4.74) = -7.9 \text{Vpp}$$
Vppは絶対値なので、オシロスコープでは7.9Vppが観測されるはずです。
電源電圧±6V(出力限界約±5V = 10Vpp)に対して7.9Vppなので、ギリギリ飽和しない範囲です。STEP02で学んだ飽和チェックの習慣がここでも活きます。
確認すべきポイント
- [ ] 回路を組めたか
- [ ] 2つの入力波形の和が出力波形になっているか
- [ ] R1、R2の抵抗値を変更すると出力Voはどのように変わるか
実験結果

オシロスコープ画面(同じ波形を2つの入力に接続した場合)は以下のようになります。

- 入力波形1:Vi1 = 3.16Vpp
- 入力波形2:Vi2 = 3.16Vpp(同一信号を分岐)
- 出力波形:Vpp = 7.9Vpp
理論値7.9Vppと一致しました。また、出力波形は入力に対して位相が180°反転しています。これは加算回路が反転増幅回路の拡張であるため、当然の結果です。
練習問題
問1:交流入力信号の場合
条件:R1 = 10kΩ、R2 = 33kΩ、Rf = 22kΩ
Vi1とVi2に同じ2.8Vppの正弦波を入力したとき(同周波数・同位相)、出力電圧はいくらになるでしょうか。
解答:8.0Vpp
$$V_o = -\left(\frac{22k}{10k} \times 2.8 + \frac{22k}{33k} \times 2.8\right) = -(6.16 + 1.87) = -8.03 \approx -8.0\text{Vpp}$$
Vppは振幅(絶対値)なので、8.0Vppが正解です。
ここで注意すべきは、R1側の重みが2.2倍、R2側の重みが0.67倍と大きく異なることです。同じ2.8Vppの入力でも、R1経由の成分がR2経由の約3.3倍も大きく効いています。これが重み付き加算の効果です。
電源電圧±6Vの出力限界(約10Vpp)に対して8.0Vppは収まっていますが、余裕はあまりありません。入力振幅がもう少し大きいと飽和するでしょう。
問2:直流入力信号の場合
条件:R1 = R2 = Rf(等価加算)
Vi1 = 2Vdc、Vi2 = −3Vdcを入力したとき、出力電圧はいくらでしょうか。
解答:1Vdc
等価加算なので以下のようになります。
$$V_o = -(V_{i1} + V_{i2}) = -(2 + (-3)) = -(-1) = 1\text{Vdc}$$
2Vと−3Vの「足し算」は−1Vですが、加算回路は反転するので、出力は+1Vdcになります。
この問題は、加算回路が符号付きの足し算(つまり加減算)ができることを示しています。正の入力と負の入力を混ぜると、部分的に打ち消し合います。
加算回路の利用例
加算回路は信号を混合する場面で広く使われています。
- カラオケ装置:マイク入力とBGMを加算して1つのスピーカー出力にする
- 音声合成・音響ミキシング:複数の楽器やボーカルを1つのトラックにまとめる
- D-Aコンバーター:デジタル信号の各ビットに対応する重み付き電圧を加算して、アナログ信号を合成する
とくにD-Aコンバーターでの利用は興味深いです。R-2Rラダー回路と組み合わせて、バイナリ重み付きの加算を行います。デジタルの世界とアナログの世界をつなぐ橋として、加算回路が活躍しています。
デジタルの半加算回路との比較
「加算」と聞くと、デジタル回路の半加算回路(Half Adder)を思い浮かべる方もいるかもしれません。
同じ「加算」でも、デジタルとアナログではまったく異なるアプローチです。
| 項目 | 半加算回路(デジタル) | 加算回路(オペアンプ) |
|---|---|---|
| 入力 | 2値(0 or 1) | 連続値(任意の電圧) |
| 出力 | Sum + Carry(2ビット) | 1つの連続電圧 |
| 構成部品 | XORゲート + ANDゲート | オペアンプ + 抵抗 |
| 「足し算」の意味 | 論理的な桁上がり付き加算 | 電圧の重み付き算術加算 |
| オーバーフロー | 桁上がり(Carry) | 飽和(クリッピング) |
| 重み付け | なし(各ビット等価) | Rf/Rnで入力ごとに設定可能 |
| 入力拡張 | 全加算器が必要(構造変更) | 入力抵抗を追加するだけ |
半加算回路では 1 + 1 = 10(2進数)となり、桁上がり(Carry)が発生して情報が2本の出力線に分かれます。一方、オペアンプの加算回路では 1V + 1V = −2V(Rf = R1 = R2のとき)となり、桁上がりはなく1本の出力線に合算されます。ただし電源電圧を超えると飽和します(STEP02で経験済み)。
両者が出会う場所がD-Aコンバーターです。半加算回路が扱う「0と1」の世界を、オペアンプの加算回路が「アナログ電圧」に変換します。デジタルとアナログの接点にオペアンプの加算回路がいるというのは、覚えておくと面白い視点です。
まとめ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 回路の本質 | 反転増幅回路に入力を追加したもの |
| 出力電圧(2入力) | Vo = −(Rf/R1 × Vi1 + Rf/R2 × Vi2) |
| 出力電圧(n入力) | Vo = −(Rf/R1 × Vi1 + Rf/R2 × Vi2 + … + Rf/Rn × Vin) |
| 増幅率の決定要素 | 各入力抵抗とRfの比 |
| 位相 | 反転(入力に対して180°) |
| 仮想接地 | (−)端子は0V |
| 拡張性 | 入力抵抗を追加するだけでn入力に対応 |

























